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放課後に出雲の観光列車に乗ってきた【2日目】

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私の貴重な友人の一人から出雲に誘われ、遠路はるばる出雲にやってきました。その目的こそが、この奥出雲おろち号に乗車するためです。

 

日常を忘れるためには記録記録に追われない旅も必要ですが、結局撮った写真を解説するために記録に追われる旅になりました。まあ動画と録音機材を常に振り回してるよりはマシですが。非日常の体感といったところでしょうか。

 

移動編・8時間下校の様子はこちら↓

sangen03.hatenablog.com

 

 

 

木次線

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出雲に来た翌日、キハ126とキハ120を乗り継いで木次までやってきました。列車はディーゼルの音を立てながら、田んぼと畑と山と少しの民家を横目に、今まで僕が目にした中でも1番の田舎へ進んでいきます。宍道から木次までの区間でも、横浜では決して見られない鶴がいたり、藁の香りがしました。道路交通が発達している現代において、こんな辺鄙な地に鉄道が通っているというのは異様なもので、むしろ奇跡的といえます。

 

奥出雲おろち号について

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さて、こんなど田舎までやってきた目的はただ一つ、奥出雲おろち号に乗車しました。トロッコ車両修善寺ロムニー鉄道以来、国鉄優等列車(これは各駅停車ですが)・旧型客車の乗車は初めてです。

 

車内の雰囲気を見るに、YouTubeに今までおろち号の記録が乏しい理由がわかりました。乗車は困難で前泊を必須とすることや人気が高いこともさることながら、そもそも何もかもが東京にないものなのです。それでみんな感動しちゃって自分が楽しむための写真撮影で精一杯なのです。今後増えるんですかね。

 

もしこのブログを見ていて奥出雲おろち号に乗る予定のYouTuber、動画投稿者がいたら、僕はろくな動画も音声も撮れなかったのでいい動画を増やしてあげてください。その代わり写真はたくさん撮りました。

 

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ここでは列車も時間の流れもゆっくり進みます。ブルートレインの生き残りであるスハフ12形、ゆっくり山上へ押してくれるDE10、なんだか異世界に来たみたいです。トンネルの中は夜行列車のようです。タイムスリップしたような感覚を覚える人もいるでしょう。ここは銀河鉄道か何かなのでしょうか(本当に銀河鉄道をイメージしているみたいです)。私は天界に召されるのでしょうか。

 

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座席はこんな感じ。簡易リクライニングシートで、座席横のレバーでリクライニングを調整でき、座席の回転も簡単にできます。昔はこんな感じの座席ばかりだったみたいです。ふかふかで座り心地が良かったですね。お父さんの背中のような安心感でしょうか。何か貫禄すら感じられます。

 

座席をひっくり返してボックスシートみたいにして足をひっくり返した座席の上に置くと…まるで寝台。

 

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便所もなんだか見たことがない雰囲気。今よりも臭いですし、こんな青い水が流れたんですか。消臭剤の副作用かもしれませんが。

 

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洗面台も昔の様子をとどめています。

 

奥出雲おろち号往路

列車はすごく遅いスピードで、自然と人間の調和を感じさせながら進んでいきます。

 

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戦利品。左から木次ミルクコーヒー(110円)、出雲八代のクリーム大福(400円)、ポストカードと入鋏済の乗車券類です。木次鉄道部のスタンプはここでしかもらえないものと思われます。普通は運賃箱に回収されますからね。

クリーム大福はカラメルが入っていて甘くて冷たくて美味しいです。ミルクコーヒーで中和するとちょうどいいでしょう。

 

こういう旅をしていると、財布の中の千円札が消えるスピードが早いんですよ。観光列車は、物販で稼いでいる部分がありますからね。都会で稼いだお金を地方に落とすということでしょうか。

 

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出雲八代の駅で予約していた蕎麦を購入。舞茸が入っている蕎麦です。結局食べたのは復路ででした。ヘルシーそうなそばでしたね。

 

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出雲坂根の駅では長寿の水を汲むことができます。コップは100円で買いましたが、これも今ではかなり珍しいタイプのものということ。汲んだ水は少し癖がありますが、川の水にしては雑菌とかはなさそうでした。

 

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木次から出雲坂根まで進むにつれ、山が近くなってきました。ここまでも何百メートルも勾配を上ってきましたが、ここからさらにキツくなります。

 

ここでスイッチバックをするんですね。なお僕はスイッチバックを体験するのはこれが初めてです。前に箱根登山鉄道に乗ろうとした時がありましたが台風でぶっ壊れてましてね…

 

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相当険しい道を行きます。この区間では自動車もループ橋を使っていて、この区間を越えるのに苦労している様子が窺い知れます。

 

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列車はJR西日本で最も標高の高い駅である三井野原へ到着。ツアー団体のバスが並んでいます。クラブツーリズムだとか地元の観光協会だかが鉄道のツアー旅行を企画してくれている会社で、鉄オタが目を見張るような珍しい列車を使ったツアープランをたくさん走らせています。それで座席が埋まっていて、前日とかに解放するのでキャンセル待ちを獲得できるみたいなこともあるみたいです。

 

今回の奥出雲おろち号のように一般の観光列車の座席を押さえてツアー旅行を売るみたいな例もありまして、だからこの場合三井野原から備後落合は実は普通に席が取れるということがあるみたいなんですね。まあ三井野原までどうやって来るねんっていう問題がありますが。

 

友人がおろち号とかだと一部区間とかもしくは全く列車に乗らないで撮り鉄などをして木次線を応援しているというのは最高に皮肉が効いていると言っていましたが、。まあそういう人もいますよね。木次線に乗らないにしても、こうした客寄せ列車はその人たちが木次線以外にも地方に金を落とすことが目的ですから、車で行くにしても通り過ぎないで地元のものを味わって多少は金を落としていくべきだと思います。

 

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ということで席が空いたので、トロッコ車両三井野原から油木間で乗りました。ところが、葉っぱや蛾やたんぽぽの綿毛がたくさん入ってきて目を痛めかねなかったので撤退。やはり特に田舎では窓が閉められる控車に乗るべきです。あんまり気づいていないみたいですが、控車の同じ号車で寝転ぶこともできます(リンク先ツイートの写真)

 

備後落合駅

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そしてJR西日本で1番秘境にある備後落合に到着。まさか広島県にこのような形で入るとは思ってもみませんでした。

 

広島県でも、親の故郷の町(要定義)尾道とは異なり、冬季には雪がかなりの量降るような気候であります。こんな田舎な場所でも、昔は蒸気機関車やら気動車やらが行き交っていた山奥のターミナル駅となっております。

 

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この辺りの駅は、大体単線か、行き違いのために2番線まである駅が多いですが、この駅は3番線まであって、さらに機回し線も3〜4本くらいあり、転車台もあります。現在は、機回し線が活用されることはなく、おろち号を除けば普段はキハ120ばかりが落ち合う駅となっております。かつて陰陽連絡の要衝であったことが伺えます。

 

停車時間は12時36分から57分までのわずか20分。秘境駅といえども3番線まである見どころたっぷりの駅なので、この時間は短すぎます。

 

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備後落合駅では元国鉄機関士のおじさんが解説をし、倉庫にある鉄道模型を見せてくれました。ボランティアだかが相当長い時間かけて制作された模様。助役の帽子を被って友人と記念撮影もして、非常に濃密な時間を過ごすことができました。

 

同じくおろち号に乗車して鉄道模型を見ていた人の1人が、愛する息子の運動会を放り出してこの奥出雲おろち号に乗りに行って、また乗りたいと言っていました。本物の鉄道マニアというのは好きなことのためなら育児すら投げ打つんですね。しかもそれを許してくれる嫁さんも心が広いと感じました。撮り鉄の風当たりが強い時代ですが、鉄道の魅力は、分かる人には分かってくれるんですね。

 

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倉庫の中には当時使っていたタブレットや時刻表など、大量の備品があります。友人は大宮や京都の鉄博よりも、遥かに優れた鉄道文化財だという感想を述べました。それは流石に言い過ぎだと思いますが、それだけこの備後落合がプライスレスだという話なわけです。

 

今こうやって備後落合のノスタルジーに耽ると同時に、昔の鉄道について体験して多くの知識を得ることができました。だから僕はむしろ今の知識を得た状態でもう一回大宮や京都に行きたいですね。かつて無知な状態で行った時とまた違った景色が見えるはずです。

 

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このおろち号ですが、落合行きに乗って備後落合駅から14時ごろに到着する芸備線の上下列車に乗って帰る片道乗車も可能です。なお逆方面はおろち号への乗り継ぎは難しく、三次・備後庄原方面からバスに乗るか、早朝の普通列車で到着して手持ち無沙汰になる他ありません。

 

奥出雲おろち号復路

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アルプスの牧場が流れ、列車は備後落合を出発。先ほど同様分水嶺を越えて、出雲坂根にやってきました。

 

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出雲坂根駅。この駅では長時間停車があります。大体長時間停車になると、客は皆足並みを揃えて外へ出て行きます。というか木次線宍道〜備後落合往復で客層に変化もあまりないですしね。

 

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出雲坂根駅では焼き鳥を売っています。一個120円。坂根駅では、焼き鳥を焼く香ばしい匂いがしていて購買欲を促進させられるんですねこれが。

 

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出雲三成駅でも、反対列車待ち合わせの兼ね合いで15分ほど停車しました。写真を撮っていなかったのでこの駅で撮影した記念品で代用。たたら製鉄をした土地で農業をおこなっているようで農業を推しているようです。だから田んぼとか多かったんですね。

 

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澄んだ水に大自然。この列車は簡単に圏外になるんですね。電波に縛られない旅には最適ですが、どうしても同じ日本とは思えなくて記録をしたくなるものです。舞岡や宮ヶ瀬でもここまでの絵に描いたような田舎じゃないですよ。

 

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あっという間に終点木次。乗継の宍道行き普通列車は3分の乗り継ぎで、別れを惜しむ暇もありませんです。

 

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木次線加茂中駅直前の直線。この辺りは地元客の乗り降りは割とありますが、出雲横田から先は本当に人がいないんでしょう。線路に草ボーボーな区間も多数あります。

 

この後は、宍道木次線に乗り継ぎです。出雲市〜備後落合は往復8時間半ほどでした。行程はゆったり進みましたが、たくさんの要素があってむしろあっという間でした。

 

乗車した感想:地元民がおろち号にかける愛情について

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特に奥出雲町では、観光列車を見送るたくさんの人が目立ちました。駅で撮影している人もいましたが、それだけではありません。観光列車が通るときだけは、ホッケーをしている女子高生が手を止めて手を振っていたり、田植えなどの農作業をしている人が手を止めて手を振りかえしてくれているのが魅力的でしたね。

 

出雲横田の駅でも相当数お見送りの人がいました。ガチのカメラを構えている男女2人や、同じく男女2人でも鉄道に造詣が深くなさそうな人が手を振ってお見送りみたいなこともやっていました。踏切のところに少年や老人がいたり、車で並走しながら撮影して追い抜いたりしている人も見かけました。

 

比較するのは良くないとも感じておりますが、以前肥前浜駅を訪れたときは普通の平日だったし話題も落ち着いていたので関係者以外の人は少なかったですが、おろち号は全くそんなことはありませんでしたね。地元の人のこの列車への思いというのが乗ってみたらわかると思います。

 

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この写真がわかりやすいでしょう。雲南市内・木次駅手前でも、田植えの作業をやめてこんな感じに多くの人がお出迎え。みんな手を振っている状態です。

 

地元沿線民のこの列車への愛情を感じた乗車でした。これはここまで来た甲斐がありましたよ。

 

乗車した感想:情報量の暴力

今回の観光列車ですが、記録する間もなく色々なことが畳み掛けてきてきたんですね。

 

特に国鉄式のチャイムというのは骨董ものの音声ですから、ぜひ収録しておきたかったですがそこまでの余裕がありませんでした。記録していると突然流れてきます。雰囲気に浸って収録できないですよ。それは本当に残念ですが、収録したところでこんなに素晴らしい音声を何かいたずらに使えないですよ。

 

記録にせっせと励むよりも、自分がその瞬間にどれだけ幸福感や価値を感じられたかが大事になってきます。観光列車は我々に新たな感動をもたらすものです。全国のJRで走っているので、ぜひ見つけて乗ってみてほしいですね。

 

そして、私はどちらかというと新型車が好きなのですが、たまにはパラダイムシフト元の旧型車もいいですよね。そう言っているうちに新型車も旧型車になりますが。

 

乗車した感想:地方交通線と政治論

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まさかおろち号から政治批評をやる人はいないだろうと思いますが、あえてやってみます。

 

木次線+αで3人以上のグループ旅行で対象経費の1/2(上限10万円)の補助金が出ます!」

 

これの他にも色々な助成プランがあります。

kisuki-line.jp

 

この木次線、特に山越え区間では100円稼ぐのに1万円かかっている区間もあるとみられます。常に廃線の危機にさらされている木次線。もはや残っているのが奇跡レベルのゾンビ路線ですが、木次線利活用推進協議会があって、なんとか「乗って残そう」というのを薦める動きを進めています。

 

これって木次線版GOTOトラベルですよね。協議会が金を出すみたいですが、地元自治体や商工会、観光協会によって立ち上がった法人なので、過去の地元企業への売上や、多分税金も使われているんだと思います。コロナ禍で苦境に立たされているようですから、出血大サービスで金を落としてくれと言わんばかりの雰囲気。団体利用が必須とはいえ、最大10万円ってこんなにお得な話はないですよ。

 

だからこのPDFにも「買って残そう」「載せて残そう」が含まれているんですね。木次線によってその地域を振興することがこの協議会の最大の目的ですから。

 

 

ところで日本って、農村にお金を落とす傾向がありますよね。日本は農村や漁村に保守系の支持が強いと言われています。政治家は自分を支持してくれるところにお金を落としたがるので、地方に助成金だかが降りてトンネルなどのインフラがバンバン建っています。

 

この話を聞いて、親の田舎の人口7000にも満たない瀬戸内海の小さな島嶼部の自治体に大きな橋がバンバン建っているのは何が財源なのかなと思っていましたが、納得しました。当該自治体は自民党の支持が強いところです。国に働きかけて支持基盤のある自治体にインフラ整備のための金を注ぎ込んでるんですね。

 

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伯備線沿線にも高速道路やたくさんの高規格道路が建設されております。木次線沿線の1992年に開通したおろちループ橋もその一つです。こうした公共事業にはもちろん行政が大きく関わっており、お上の意向がその地域のインフラがどうなるかに大きく関わっていくことを実感できました。いわゆる箱物行政ってやつですよね。

 

そのうち、「高規格道路があるから鉄道いらんやろ」と国が思うようになるかもしれません。事実、道路交通の発達により地方交通線の多くは廃線にされてきております。木次線もお上の意向で残さないようにできるかもしれませんし、そういう意味ではまだ木次線の沿線の行政はまだ諦めていないのがすごいですね。

 

おまけ:含鉄泉と、旅する風土記

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出雲市まで帰ってきた後は、サンライズなどを撮影して、スーパーで安く晩飯を手に入れた後、駅至近の天然温泉へ。そこがらんぷの湯という施設なのですが、さすがは出雲だなと思いました。

 

お湯が茶色くて、体を拭くと真っ白なタオルに茶色い跡がついているんですね。これは鉄分の色です。なるほど、たたら製鉄が有名な斐伊川の麓だからですね。地層に鉄分がたくさん含まれているわけです。確かに川の水も茶色かったです。ちゃんと洗えば落ちるようですよ。奥出雲町の製鉄産業の息吹をここでも感じることができました。

 

こうした発見ができるのが旅行の醍醐味の一つですよね。例えば、地元のスーパーに行ってみると、地元の特産物やソウルフードがわかるかもしれません(これはほぼジャンクですが、半額シールばっかりで安上がりの晩ごはんにできました)。

 

旅行とか行くと、僕が小学生の頃だったらすれ違いMii広場とかでめっちゃすれ違った!みたいなところで興奮していたり、JR九州アプリや駅メモ、スーツ旅行アプリなどのログイン機能に躍起になっている人がいますが、はっきり言って集めるのは無理です。なぜなら旅先の新しい発見や光景に見とれるから。雰囲気に浸ってたら記録を忘れるんですね。僕はこの光景を残したい、もしくはストレージ容量を開けたいという思いで記録してますが、全く間に合っていません。取材などという目的の定まっていない旅行だと必ずこうなります。自分の知らない世界に耽っているのです。

 

そもそもデジタルな情報ってあっさりしてますよね。あなたのそのログイン履歴、冥土に持ってけますか?って話なんですよ。それよりも実際に見て、五感で木次線や興味のある旅先を味わってくべきだと思います。こういうスマホの平面で見る情報よりも実際に目にする絶景、絶品とか(もちろん醜い・まずい品物もありますが)、人々の生活、風習の方が遥かにプライスレスですよね。そうやって自分の中に記録が蓄積されていく。これが今の地球に生きる意味の一つであることをはっきりと自覚しました。皆さんも旅する風土記になりましょう。

 

私の放課後出雲見物はまだ続きます。

 

次回↓